アイドル観

 アイドルとは、天性の才能とたゆまぬ努力により磨きあがった魅力を、不特定多数に向けて平等に振りまく存在だ。平等に割り振られた魅力を、それが自分だけに向けられたものではないと自覚した上でなお、欲望を超えた、言葉にできない尊さを感じた人間がファンになる。これがアイドルとファンの関係性であって、両者はなによりも特別を嫌悪し、ひたすらに均衡を保つべく立ち回る必要がある。したがって、アイドルはファンに向けるはずだった魅力を特定個人に向けてはならないし、ファンも必要以上にアイドルに近づいてはならない。
 この契約はアイドルに不利であることは否定しない。アイドルは多数のファンからの好意を一人で受け止めなければならないからだ。アイドルとして芸能界で活動していると、必然的に社会の上位に位置する非常に魅力的な人間が周囲に集まってくるだろう。アイドルは、そういった相手に対しても特別な感情を抱いたり、表に出すこと無く常にアイドルとして振る舞い続けなければならない。
 対して、ファン側はアイドルに近づきすぎさえしなければ、自分以外のアイドルを追いかけてもよいし、恋愛をしてもいいし、なんなら家庭をもってもよい。アイドルにとってのタブーは、一般的には極めて自然に行われている行為なのだ。自らの意志でアイドルになることを選び、人間の基本ルートから逸脱することを決めたとしても、一般的な感性をもった人間なら、社会から取り残されていく不安や恐怖は常にまとわりついてくるに違いない。
 ……ぼくがそんな立場であったら、とても耐えられないね。
 そちらは勝手に生物をやっておいて(何なら自身に性欲までぶつけているかもしれない)、そのくせこちらには純潔を求めてくる。アイドル側からしたらたまったものではないかもしれない。しかもここまで徹底して、商業的に成功するアイドルはほんの一握りなのだから、なんとも過酷な世界だと思う。
 それでもこのいびつな関係性が今日まで成り立ってしまうのは、この不平等こそがアイドルがアイドルとして成り立つための要件であるからに他ならないんだよね。
 鋼鉄の意志を貫いて溜まりに溜まった、正負入り混じったエネルギーしか、ファンは摂取できないんだ。
 はっきりいって、ファンは、アナタを、アイドルを人間として見ていない。例えるなら、神かな。
 つまり、崇拝しているんだ。
 関係性を守り続けるアイドルとしてのアナタを崇拝しているからこそ、ファンはステージにたつアナタをみて恍惚を含むため息をつき、足が棒になるまで飛び、喉が枯れるまで叫び、涙を流す。それは、ファンにとってとても気持ちよくて幸せな瞬間なんだ。アナタも、ぼくたちの崇拝を一身に受けて気持ちよくなっていることを、うっすらと自覚しているんじゃないかな。
 崇拝は恋愛感情とは最も遠いところにあるから、ファンはアイドルと結ばれることはないし、結ばれようとも思わない。不平等な関係性かもしれないけど、アナタがアイドルとして在ろうと思えば、永遠にアイドルとして在り続けられるんだ。当然ファンも、アナタがアイドルで在り続ける限りはいつまでも崇拝するよ。
 だから、安心してアイドルを続けてね。